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岡山地方裁判所 昭和38年(行)5号 判決 1964年6月30日

原告 山田真常

被告 岡山県

補助参加人 山田正巳

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

「被告が昭和二七年一一月六日農地部長名をもつてなした別紙目録記載の各物件についての買収・売渡計画承認取消処分(農開第一、八五一号)は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、その請求原因として別紙(一)記載のとおり陳述した。

被告指定代理人は主文と同旨の判決を求め、その理由として別紙(二)記載のとおり陳述した。

理由

本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告が本訴においてその無効の確認を求めている処分は、倉敷市万寿農業委員会が右農業委員会の前身である倉敷市万寿農地委員会がさきに樹立した別紙目録記載の各物件についての買収・売渡計画を取消すについて、農業委員会法(昭和二六年法律第八八号、昭和二九年法律第一八五号による改正前のもの)第四九条の規定に基づいて被告にその確認を求めたのに対し、被告が昭和二七年一一月六日付でした、取消が相当であると確認をした処分であることが明らかである。

ところで、前記農業委員会法にいう確認は、一つの行政庁である農業委員会が一度した処分(このなかには、農地の買収および売渡計画の設定が含まれる)を取消すには、その監督行政庁である知事にあらかじめ確認を求めてからでなければできないこととして、農地行政の適正を期したものであつて、行政監督上の内部的意思表示にすぎず、右確認処分自体は、一般国民の権利義務に直接影響し、損害を及ぼすべき性質のものではないと解するのが相当である。

しかして、行政事件訴訟法によつて無効確認を求めることができる処分は、国民の権利義務に直接影響を与えるものに限られることは明らかであるから、前記農業委員会法第四九条による被告のした確認の処分は、右訴訟の対象となる処分に該らないものといわなければならない。

なお、原告の主張によれば、別紙目録記載の各物件は、もと補助参加人の所有に属していたが、自作農創設特別措置法第一五条の規定により政府に買収され、被告が昭和二三年三月二日その売渡を受けたというのであるから、売渡の基礎となつた買収・売渡計画を取り消した処分が無効というのであれば、現在右各物件の所有権を有するという補助参加人との間において、右取消処分の効力の有無を前提問題とし、その所有権の帰属を確定すれば、原告の目的は果たされるのであるから、原告は、行政事件訴訟法第三六条に規定する確認の利益も有しないといわなければならない。

このようなわけで、原告の本件訴は、不適法であるから、却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柚木淳 井関浩 金野俊雄)

別紙(一)

請求の原因

一、被告は昭和二十七年十一月六日農地部長名を以て、昭和二十三年三月二日原告が訴外山田正巳より自作農創設特別措置法第十五条により買収・売渡を受けた別紙目録記載の各物件につき、右正巳よりの左記独断的な申請を何等調査することなく漫然正当なものと即断して右買収・売渡計画承認の処分を取消した。

二、右正巳の申請理由によれば、右正巳と訴外山田良太郎との間に、右各物件が正巳の所有なることを右良太郎に於て確認したる和解調書と、原告が右処分取消を承認したりと作為したる二点にあるものの如きも、原告は正巳が右取消処分の申請をするに際し事前事後何れの時に於ても何等相談を受けたる事実は全く存しないのみか、右良太郎対正巳間の和解調書の如きは、むしろ右各物件が正巳の所有たる事の確認であるから正巳が右各物件を原告に売渡した事の正当性を裏付ける事由にこそなれ、右各物件を原告に売渡したる処分を取消す理由とはならないにもかかわらず、正巳が勝手に右の如き申請をなしたるは、同人が当時倉敷市万寿農地委員会の委員をしていた関係から、その地位を悪用し専断欺罔したものに外ならない。

三、尚如何に原告および正巳が兄弟であるとはいえ、かかる重大事項に関し事前に農業委員会としては原告を審尋調査しなければならないものと思料するところ、全然その事なくして、原告の知らぬ間に一方的に右処分取消を相当と認め、その旨被告に具申し、被告も亦前陳の如く漫然之を妥当として之が取消を為したるは根本無効なりと思料するにより、本訴提起に及んだ次第である。

別紙(二)

理由

原告は、訴外倉敷市万寿地区農業委員会長が、本件土地建物の買収売渡計画について、被告に対し、それが取消すべき処分であることの確認を求めたのに対し、被告が農地部長名をもつて、昭和二七年一一月六日付農開第一八五一号文書により、右会長に対して右取消は相当と考えられるとして承認を与え、処理の指示をしたことをとらえ、行政処分であると解し、その取消を訴求しているもののようであるが、右被告の行為は、上級行政庁の下級行政庁に対する行為すなわち行政庁相互間の対内的行為であつて、行政庁の国民に対する対外的行為ではなく、その行為自体によつて国民の権利義務に変動を与える性質のものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当らない。

よつて、本件訴は不適法として却下されるべきである。

(別紙目録省略)

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